17世紀のヨーロッパを代表する画家の一人、ルーベンス。当時はスペイン領であったベルギー・アントワープ(当時はネーデルラント)出身の彼は、古代美術やイタリアのルネサンス美術の影響を受け、華やかな色彩とダイナミックな構図が特徴的なバロック美術の画家として名声を博しました。
画家として大成功を収めながら、同時に外交官として活躍し、アントワープ市長や世界遺産のプランタン=モレトゥス博物館を経営する幼馴染との華やかな交友関係もあったルーベンス。アントワープの街を歩けば、あちこちに点在する彼の名作とともに、希代のスーパースターであった彼の暮らしぶりも垣間見ることができます。
ノートルダム大聖堂

© VISITFLANDERS Cathedral Antwerp via photopin (license)
世界遺産であり、日本人には「フランダースの犬」に登場する教会としておなじみのノートルダム大聖堂(聖母大聖堂とも)。物語の最後、疲れ切った少年ネロが見たのがルーベンスの祭壇画です。祭壇画とは、教会の祭壇の後ろに飾られる絵のことで、宗教的な場面を題材にしたものが多いです。 美しい装飾を施したパネルに収められ、2枚、3枚のパネルを組み合わせた祭壇画も多くあります。
ルーベンスの家

ルーベンスの家で見られる彼の自画像。芸術家でありながらコレクターであった彼が集めた美術品も展示
何ヶ国語も話し、外国との交渉力も身につけていたルーベンスは、もともと裕福な家の出身であり、優れた教育や美術に囲まれて育ちました。そんな彼が自ら設計したのが、アントワープの一等地にあるルーベンスの家。
充実したルーベンスの作品のコレクションはもちろん、贅を尽くしたこだわりの内装や調度品のほか、アンソニー・ヴァン・ダイクら弟子の作品も見られます。「家」というと質素な響きですが、実際は「豪邸」。古代ローマの影響を受けたスタジオは必見です。
プランタン=モレトゥス博物館

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。
世界遺産に登録されているプランタン=モレトゥス博物館は、ルーベンスの幼馴染であるバルタサル・モレトゥスが経営した活版印刷の工場。ルーベンスが手がけた書籍の表紙デザインや挿絵を担当したり、モレトゥス家の肖像画をこの博物館で見ることができます。
工場兼住居であった博物館の建物は、当時はアントワープの有力者や芸術家が集うサロンの役割を果たしていました。印刷所の経営で財をなした両家の美術コレクションには貴重な古書、絵画の数々も多く、メディアとして絶大な力を誇った印刷産業の歴史を感じることができます。本好きな方、デザイン好きな方には絶対おすすめです。
聖カロルス・ボロメウス教会

ルーベンスによるカルロス・ボロメウス教会の祭壇画「聖なる家族の帰還」
ルーベンスが絵画や天井の壁画、ファサードの装飾などに携わっていましたが、1718年の火災で作品のほとんどを焼失してしまいます。ですが、ここで見られるルーベンスの『聖なる家族の帰還』という祭壇画は必見。一時は行方不明になっていたのですが、250年の時を経て、2017年にこの教会に戻ってきました。
ロコックス邸

© stijn Nicolaas Rockox via photopin (license)
ルーベンスの友人であり、17世紀にアントワープの市長を務めた名士・ニコラス・ロコックス(1560-1640) の邸宅を改装した美術館です。ここには、ルーベンスやブリューゲルの作品を代表とする彼の私的コレクションだけでなく、当時の富豪の生活が垣間見れる貴重なタペストリーや書籍等も展示されています。また、2019年まで改装中のアントワープ王立美術館の作品の一部もここで見ることができます。
聖ヤコブ教会
ルーベンスの家からほど近い場所にある、17世紀に建てられた聖ヤコブ教会。ここでは、ルーベンスが永久の眠りについています。祭壇裏の埋葬礼拝堂には、ルーベンスのお墓とルーベンス作『聖人に囲まれたマリア』の絵が。この絵は彼がお墓に飾ることを想定に入れて描いた絵だそう。アントワープ王立美術館
アントワープ王立美術館は、ルーベンスのコレクションが充実していることで知られていますが、2019年春までリニューアル工事のため閉館中です。代表的な作品は、『東方三博士の礼拝』、『放蕩息子』、『キリストの洗礼』など。他にもルーベンスのデッサン、祭壇画なども展示されています。
最後に
上で紹介したルーベンスにまつわる様々な場所は、全てアントワープの中心部にあり、全て歩いて回れる距離にあります。また、全ての場所がアントワープシティーカードというフリーパスの対象になっています。
アントワープは現代ファッションでも知られる街であり、古い芸術と新しい芸術が交差する様子が街を彩るショップやカフェ・レストランのデザインにも見ることができます。不思議な魅力を持つアントワープを、ルーベンスを起点に歩いてみてください。