プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

ルーベンスが友人に書いた絵も見られる、プランタン・モレトゥス博物館へ

Museum Plantin-Moretus
BELPLUS編集部

プランタン・モレトゥス博物館について

プランタン・モレトゥス博物館は1867年まで印刷業に使われていたプランタン社の建物を利用した博物館です。2005年、ユネスコの世界遺産に選ばれました。 1605年にヨーロッパ初の活版印刷の新聞が刷られた場所と聞くと、古びた工場を想像してしまいがちですが、実際には、印刷事業で巨万の富を築いたプランタン一家の財力を見ることができる住居兼工場です。ベルギーの煉瓦造りの美しい建物と、豪華な内装と美術品の数々に圧倒される、アントワープを代表する博物館です。  

プランタン・モレトゥス印刷所がぴったりな人は?

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

プランタン・モレトゥス博物館の入り口。アントワープの中心部のとてもアクセスがいい場所です。

見どころがいっぱいあるアントワープの中で、この印刷所を観光するかどうか迷っている方もいらっしゃると思います。私は個人的に、この印刷所はアントワープで1,2を争うくらいおすすめしたい場所なんです。

この印刷所を訪れるべきなのは、こんな人

  • 無一文から富豪になった、ファミリービジネスに興味がある人
  • 本作り、印刷、タイポグラフィーに興味がある人
  • 工場見学が好きな人
  • ルーベンスがお友達家族に書いたプライベートな絵を見たい人

無一文から才能だけで巨万の富を築いた、プランタン一家のサクセス・ストーリー

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

プランタン一家の三世代の肖像画、彫像がいたるところにあります。ファミリービジネスの真髄ここに極まれり

プランタン・モレトゥス印刷所は、昔の印刷の説明や書物の発展の歴史がわかると素晴らしい展示があります。ですがそれと同じくらい力が入っているのは、このファミリービジネスを一から作り上げたプランタン一家を讃える展示。彼らの苦労、ビジネスの危機、競合との戦い、魅力ある製品を一か八かで投入、地元の有力者とのコネクションづくり、印刷以外のビジネスへの業務拡大などなど、日経新聞「私の履歴書」に載っていてもおかしくないくらい、日本人にも親近感がある話ばかりなんです。

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

中央にある美しい庭にも親子3代(義理の息子含む)の彫像が飾られています。男性ばかりが目立っていますが、5人の娘たちには他事業のレース織りビジネスを継がせています。

妻とともにフランスから移住したクリストフェル・プランタンは、1561年、活版印刷業を開始。当時のアントワープは港を中心とした国際的な輸出入業で栄えていたまさに「黄金時代」。母国フランスではレザークラフトと製本作業を生業にしていた彼にとって、唯一のビジネスチャンスが、アントワープで印刷業を開始することでした。印刷所を始めるまで、彼は必死に働いてお金を貯めたそうです。

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

印刷所には15~16世紀のアントワープの絵も沢山あります。船の数の多さが黄金時代の力強さを物語っています。

1555年に初めての本を印刷・出版したところ、当時の知識階層であった作家や科学者の注目を瞬く間に集めました。彼の印刷製本技術は非常に優れており、そこから20年経たないうちに、フランスやドイツに支店を持つヨーロッパ1の印刷会社になったのです。

南フランスの古い地図。今の地図とは違う、イラストのようなマップにときめきます。

南フランスの古い地図。今の地図とは違う、イラストのようなマップにときめきます。

プランタン・モレトゥス印刷所が手がけたのは、当時の知識層に読まれていたアカデミックな本が中心。当時はそのような人だけが本を手にすることができたのです。医学、哲学、薬学など、人間が生きていくために必要だった知識が、ヨーロッパ中にあっという間に広がりました。特に医学の進歩には、以前ははなす術もなかった伝染病の対策を各地に広めるなど、偉大な貢献を果たしています。

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

皮を剥いだら筋肉が見える、わかりやすくどこかコミカルな人体の図。

当時から国際都市であったアントワープの学校には、世界各国の子供たちが集まっていました。彼らは小学校では自分の母国語を学び、それ以降はラテン語かギリシャ語を学びます。そのため、多言語で様々な言葉を説明した当時の辞書も展示されています。また、知識層はラテン語で本を読んでいたため、ラテン語の本が多く、中には世界で一つの豪華な装飾を施した「プレミア本」も。当時の知識階級にとって財産であった本にプレミアをつけて売るなんて、なかなかビジネスがうまいと思いませんか。

飛躍のきっかけになったのは、聖書とカレンダー!?

プランタン家がビジネスを拡大するにあたり、大きな契機となったのは中流階級に向けた聖書の印刷です。この聖書の販売は爆発的に広まり、プランタン家は巨万の富を築きました。グーテンベルグの印刷による聖書も販売されました。

中流階級の知識欲の高まりと、印刷コストの変化により低価格での出版が可能になったことなど様々な理由がありますが、この一世一代のビジネスチャンスを捉えたプランタン家は、本当に頭が良い家族だと思います。

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

印刷所のあちこちにあるドア上の装飾。静物の中の「本」は、知識を表すアトリビュートでもあります。

「聖書ってそんなに買い替えるものでは無いのでは(特に庶民は)?」と思ったのですが、当時の状況は違いました。キリスト教では、毎年テキストの更新が行われていたのです。いち早くその更新を取り入れて出版できたものだけが、キリスト教から「正式な聖書」としての許可を得て売ることができたのです。

このスピードについては、モレトゥス印刷所の技術にかなう競合はいませんでした。一番早く高品質な印刷ができるだけでなく、様々なサイズや言語にも対応。これまで培ってきた印刷技術と、国際都市アントワープのコネクションが花開いた瞬間です。

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

聖書をはじめ様々な本のコレクションがみられる部屋

そしてもう一つ、プランタン家が生み出したのが、「Almanac(アルマナック)」というカレンダー。日本のカレンダーのように、毎日の「大安」「仏滅」などの運勢が書かれており、これが当時の人々の心を捉えたのです。しかも、毎年新しいアルマナックを購入する必要があるので、プランタン家のビジネスはこれによって安定したと言われています。

 

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

いかにも従業員向けの部屋と、巨万の富の影響が感じられる豪華な部屋と、壁から装飾品に到るまではっきりと分かれているのが生々しいです。

また、タイポグラフィーにもこだわったプランタンは、当時の一流デザイナーを印刷所に迎え入れました。その中の一人、Robert Granjonは、現在広く使われているフォントTimes New Romanの元になったと言われています。

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

古い時代の本の作り方を見て思うのは、フォントの数がたくさんあること。

いいことばかりでは無かったビジネス

印刷所を開業してからはあっという間に有名になり、聖書やカレンダーで新たな客層を取り入れて順調に業務拡大していったプランタン一家。順風満帆この上ないという感じですが、強力な敵もいました。

まずは、当時アントワープを政していたスペインからの圧力。スペインの兵士たちに、持ち物を奪われないように多額の現金をみかじめ料として払っていたといわれています。そのほかにも、アントワープの公的機関ともトラブルがあり、一時は彼の私物が街のオークションにかけられる憂き目にあっています。

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

スペイン軍によって壊滅されるアントワープ。

また博物館では、工場の稼働につきものな初期の巨額な設備投資による借金、本の遅配や紛失による損失、競合他社との小競り合いによる資金枯渇の苦しみなども紹介されています。現代にも通じる様々な問題は、見ていると胸が痛みます。これらの様々な危機を乗り越えるためには、家族が一丸となって経営に取り組む必要があったはずです。この博物館に行ったからには、ぜひこれらのビジネスの苦労の歴史も見てみてください。

モレトゥス家の友人だったルーベンス作品は必見

創業者のクリストファー・モレトゥスには5人の娘がおり、そのうち一人と結婚した義理の息子ヤン・モレトゥスがその跡を継ぎました。ヤン・モレトゥスの跡を継いだ息子バルタザールはルーベンスと子どもの頃から友人だったため、ルーベンスに絵を依頼。ルーベンスは『ヤン・モレトゥスの肖像』など12点の絵をプランタン・モレトゥス博物館のために描きました。ルーベンスの描いた肖像画は、館内のあちこちで見ることができます。

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

ルーベンスの作品

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

ルーベンスが挿絵を書いた本。いかにも友達に頼まれて書いた、遊び心があるイラストです。

また、ブリューゲルの奇想天外な風刺画も見られます。

ルーベンスの奇想天外な絵「プライド」奇妙な宇宙船や異形の生き物たちの中央には、鏡を見つめる中年の女性。

ブリューゲルの「プライド」奇妙な宇宙船や異形の生き物たちの中央には、鏡を見つめる中年の女性。

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

こちらもブリューゲルの作品。

活版印刷の工場であり、また両家の住居であった博物館の建物は、当時はアントワープの有力者や芸術家が集うサロンの役割を果たしていました。印刷所の経営で財をなした両家の美術コレクションには貴重な古書、絵画の数々も多く、メディアとして絶大な力を誇った印刷産業の歴史を感じることができます。

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

ベルギーのもう一つの巨大産業、豪華なタペストリーも必見

プランタン・モレトゥス印刷所はアントワープで絶対いくべき場所の一つ。

オーディオガイドもありますが、折角の印刷所だからガイドブックをレンタルしてみました。入場の入り口で借りて、帰るときに本棚に返却します。

 

 

基本情報

名称
プランタン・モレトゥス博物館
Museum Plantin-Moretus
住所
Vrijdagmarkt 22 2000 Antwerpen
( 地図アプリで場所と行き方を見る)
最寄駅
Antwerpen Premetrostation Groenplaats(トラム3・5・9・15番)
営業時間
火曜日~日曜日:10:00~17:00 (チケット売場は16:30まで)
休業日
月曜日、1月1日、5月1日、キリスト昇天祭、11月1日、12月25日(イースターの翌月曜日と聖霊降臨祭(ペンテコステ)の翌月曜日は開館)
料金
アントワープシティカード の利用で入場料が無料になります
大人(26歳~64歳):8ユーロ シニア(65歳~):6ユーロ 12歳~25歳:6ユーロ 12歳未満:無料 毎月最終水曜日は無料 企画展は追加で料金が発生する可能性があります
トイレ
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公式サイト
*2019年時点の情報です。(ご利用上の注意)
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