今までで一番わかりやすかったヨーロッパ美術の解説本「西洋絵画のモチーフ」

今までで一番わかりやすかったヨーロッパ美術の解説本「西洋絵画のモチーフ」

BELPLUS編集部
ベルギーがわかる本

ヨーロッパの美術館で古代〜中世の宗教絵画を見ていると、当たり前のように出てくる旧約聖書やギリシャ神話の固有名詞の多さに驚かされます。自分の無知をさらけ出す様で恥ずかしいのですが、私はつい最近まで、これは「ピエタ」や「東方三博士の礼拝」の絵ですよと言われても、それは一体誰を描いているのか、なぜこのテーマが重要なのかが全くわかっていませんでした。

西洋美術好きな母に解説してもらい、流石に「最後の審判」や「受胎告知」などの聖書の名場面はわかるようになりましたが、それでもなかなか覚えることができず「青い服を着ているから聖母マリアだっけ…?」というひどいレベルでした。

日本でキリスト教やギリシャ神話に触れる機会がほとんどない環境で育ち、世界史の授業中は寝て過ごした私にとっては、絵の中のおじさん達を「これはヨハネ」「これはハデス」と即座に見分けられる人は、驚愕を通り越して畏敬のレベルです。

ですが、せっかくヨーロッパまで来て本物の絵を見るチャンスなのに「綺麗な絵だね〜」で終わるのは悲しい。そして、キリスト教の文化で育つ人々は、自然とこのような教養が身についているため、何も知らないと結構驚かれるということも旅行を繰り返す中で経験していました。

過去には解説本もいくつか買っていたのですが、キリスト教を理解していることが前提で書かれている本が多く、難しくて読むのをやめてしまいました。ですが今回、「西洋絵画のモチーフ」という本を買って読んでみたところ、まさに私のような初心者に向けて書かれた本であり、今まで分からなかった数々の謎が一気に解決したのです。

そのため、同じような西洋絵画の初心者さんに向けて、この本の良かったところを説明してみたいと思います。

旧約聖書、新約聖書、ギリシャ・ローマ神話、アレゴリーをイラストで解説

今までで一番わかりやすかったヨーロッパ美術の解説本「西洋絵画のモチーフ」

この本のタイトルは「マンガでわかる〜」となっていますが、説明の対象となる絵画は毎回本物が使われ、イラストが要所要所に入ってくる感じです。絵画だけでなく、背景にある旧約聖書、新約聖書、ギリシャ・ローマ神話、アレゴリー(西洋絵画に出てくるお約束のモチーフ)の様々な場面を、テキストとともに解説してくれます。

同類の解説本と比較して、この本が特に良かったのは下記のようなところです。

  • 徹底的に初心者向けであること。各聖書や神話が全くわからなくても、ストーリーから登場人物までちゃんと説明してくれます
  • 各聖書や神話の「名場面」別に、代表的な絵画を解説してくれるところ
  • 全ページフルカラーで、本物の絵画が多く掲載されていること
  • 200ページ以上あるのに、軽くて持ち運びしやすいこと
  • イラストが和むこと
  • 大人が読んでも恥ずかしくないデザイン

芸術の国・ベルギーの偉大な画家たち」のページにも描きましたが、中世時代の西洋絵画の世界では、ベルギーの画家たちが「北方ルネサンス派」として活躍していました。そのため、この本にもベルギーの代表的画家であるブリューゲル、ロベルト・カンピン、ヤン・ファン・エイク、ロヒール・ファン・デル・ウェイデン、ハンス・メムリンク、ヒエロニムス・ボス、そしてルーベンスの代表的絵画が解説されています。基本的には、誰もが一度は見たことがある有名絵画が中心です。

今までで一番わかりやすかったヨーロッパ美術の解説本「西洋絵画のモチーフ」

220ページのボリュームですが、紙質が軽いためバッグに入れて旅行に持ち歩けます。

これらの絵画は、聖書や神話の名場面として解説されるだけでなく、絵画に登場する様々な「もの」を取り上げて、「なぜここにこれがあるのか」と深堀りした解説をしているものもあります。例えば、

  • ヤン・ファン・エイクの「神秘の子羊」の子羊は誰のことで、なぜ血を流しているのか
  • ハンス・メムリンクの「最後の審判」で天秤を持っている男は何をしているのか
  • ブリューゲルの「五感」について書かれた連作に登場する女性は誰か。当時、このような絵画が作られた背景には何があったのか

など、知っていれば絵画がもっと楽しくなるものばかり。こうして本を読んでみると、「裏の意味」が多いことにびっくりしますが、これは、中世のヨーロッパでは、美術は「文字の代わり」の役割を果たしてきたことを意味しています。そう考えると、ブリューゲルの絵画に「ことわざをテーマにした(ちょっと説教くさい)絵」があることにも頷けます。

Netherlandish Proverbs, Pieter Brueghel (CC0)

「風が吹けば桶屋が儲かる」的なベルギーのことわざがたくさん入ったブリューゲルの作品Netherlandish Proverbs, Pieter Brueghel (CC0)

「キリスト教の本」「ギリシャ神話の本」「アレゴリーの本」など、それぞれのテーマで独立した専門書籍も多く出版されていますが、この本は、絵画を読み解くためのそれらの重要なポイントだけが簡潔に一冊の本にまとまっている感じです。イラストもただ和ませるためだけにあるのではなく、テキストでは解説しきれなかった重要なポイントや、ちょっと笑える絵画の裏ネタなどを描いていて、面白いと同時にためになります。

今までで一番わかりやすかったヨーロッパ美術の解説本「西洋絵画のモチーフ」

旧約聖書、新約聖書、ギリシャ神話などはこのような数ページの解説が。絵画を読み解く手助けになります

初心者向けの本のため、中級者以上にはわかりきったことばかりでつまらないかもしれません。ですが、私のように西洋絵画に何が書いてあるかが全く分からないという方や、初めて西洋絵画に触れるお子さんには、絶対にためになる本だと自信をもっておすすめします。

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BELPLUS編集部

BELPLUS(ベルプラス)は、ベルギー在住者が共同で運営するメディアです。旅行に役立つ情報のほか、現地長期滞在、留学生のための生活情報もお届けしています。