ベルギーは、西洋絵画の歴史において多くの偉大な画家を生み出した国です。中世の宗教画から近代のシュールレアリズムまで、様々なジャンルで名前を残した彼らの作品は、本場ベルギーの王立美術館や専門美術館で観ることができます。
ピーテル・ブリューゲル(父)- Pieter Bruegel
ベルギーの農民生活を精密なタッチで描いた。子供達も画家に
16世紀のベルギーを代表する画家。後述するヒエロニムス・ボスの影響を受けた宗教画や、ベルギー北部のフランドル地方の素朴な農村風景や農民の風習を精密に描いた作品で知られています。
現在、作品の多くが海外の美術館に展示されていますが、ブリュッセルの王立美術館では、彼の名作「叛逆天使の墜落」「ベツレヘムの人口調査」「東方三賢王の礼拝」などを見ることができます。

ブリューゲル「叛逆天使の墜落」Pieter Bruegel the Elder – The Fall of the Rebel Angels / CC0

ブリューゲル「ベツレヘムの人口調査」Pieter Bruegel the Elder – The Numbering at Bethlehem / CC0
また、アントワープのマイエル・ファン・デン・ベルグ美術館では、ベルギーのことわざをモチーフにしたブリューゲル「悪女フリート」を展示しています。さらに、彼の子供であるブリューゲル(子)が父の作品を模写した「ネーデルラントの諺(ことわざ)」をアントワープのロコックス邸で見ることができます(父の作品はドイツの美術館が所蔵しています)。
ブリューゲルの亡骸は、ブリュッセルのノートルダム・ラ・シャペル教会に埋葬されています。ここでは、ブリューゲルの銅像を始め、彼に関する展示をたくさん見ることができます。

ノートルダム・ラ・シャペル教会のブリューゲルの像。肩に乗っているのは小さなお猿さん
ピーテル・パウル・ルーベンス – Peter-Paul Rubens

ルーベンスの自画像Rubens Self-portrait 1623 / CC0
画家であり外交官だった、アントワープの名士。
画家というと、破天荒で、あまりお金に興味がなくて、放浪のライフスタイルを送っている…というイメージを持っている方はいないでしょうか。だとしたら、ぜひアントワープのルーベンスの家を訪れてみてください。
17世紀を代表するベルギーの画家、ルーベンス(1577 – 1640)。若い頃に8年間イタリアで暮らした彼は、イタリアの古代美術やルネサンス美術を学び、バロック美術の画家として開花しました。

フランダースの犬の最後の場面でおなじみのルーベンス「キリスト昇架」(1610年 – 1611年) Peter Paul Rubens / CC0
フランダースの犬で有名なノートルダム大聖堂の祭壇画を描いた画家としての顔だけでなく、7ヶ国語も操る外交官として有名でもあったルーベンス。多彩なビジネスマンが手がけたこのアトリエ兼住居は、彼の美意識だけでなく、経済的余裕も垣間見れる、アントワープでも有数の豪邸です。趣味の良い家具、美しく設計された庭園の中で、彼の様々な絵画が堪能できます。
アントワープには大聖堂や彼の生家の他にも、様々な美術館や教会でルーベンスの作品を鑑賞できます。中には世界遺産に登録された印刷所(ルーベンスの幼馴染の家でした)や、ルーベンスが祭壇画や彫刻を手がけたと言われるとても美しいバロック様式の教会もあるので、アントワープではルーベンスをテーマにした旅を楽しんでみてください。
ヤン・ファン・エイク – Jan Van Eyck

『ターバンの男の肖像』 (ヤン・ファン・エイクの自画像の可能性がある)
「ゲントの祭壇画」は北ヨーロッパ写実主義の最終到達点
15世紀のベルギーで、宮廷画家として人気を博したヤン・ファン・エイク。当時、ヨーロッパの芸術と外交の中心であったブルゴーニュ公国のフィリップ3世に使え、様々な貴族や裕福な商人たちの肖像画を描きました。ブルージュのグルーニング美術館では、彼の名作『ファン・デル・バールの聖母子』を見ることができます。

グルーニング美術館に展示されているヤン・ファン・エイク『ファン・デル・パーレの聖母子』(1434年)
当時は肖像画が重要な外交ツールでもあったため、画家としてフィリップ3世の寵愛を得たヤン・ファン・エイクは、しだいに外交にも関わるようになったほどです。このような背景から、当時の画家としては並外れた高待遇を受けていました。また、彼の描いた肖像画の人々や背景からも、当時の富豪たちの裕福な暮らしぶりが伺えます。
彼の傑作として名高いのは、ヤンと同じく優れた画家だったフーベルト・ファン・エイクと共に兄弟で作成したと言われる「神秘の子羊(ゲントの祭壇画)」です。ベルギーで最も有名な絵画の一つとして知られています。12枚のパネルに油彩で描かれた初期フランドル派絵画を代表する多翼祭壇画の一つで、ゲントのシント・バーフ大聖堂(聖バーフ大聖堂)で見ることができます。

ゲントのシント・バーフ大聖堂(聖バーフ大聖堂)で鑑賞できる『神秘の子羊(ヘントの祭壇画)』
ルネ・マグリット – René Magritte
チョコレートや飛行機ともコラボするシュールレアリズムの名手
シュールレアリズムの名手として日本でも人気が高いルネ・マグリット。謎めいた作品が多い彼ですが、若い頃に広告デザイナーとして勤めていたという経歴を含め、その生涯は、波乱や奇行とは無縁の平凡なものでした。ブリュッセルのつつましい(日本から見れば豪華ですが)アパートに暮らし、幼なじみの女性とと生涯連れ添い、時間や締め切りを守り、夜10時には就寝するという、画家というより公務員のイメージに近い生活を送ったとされています。
ベルギーでは、マグリットの作品を見るならブリュッセル中心部のマグリット美術館へ、彼の生家で実際の暮らしぶりや未公開スケッチを見るならばブリュッセル郊外のマグリットの家へ行くことをおすすめします。また、ベルギーではマグリットと名画とコラボレーションしたグッズも多く、おみやげにぴったりなマグリットのチョコレートやクッキーも販売しています。

ベルギーのショコラティエ・ノイハウスが販売するマグリットのチョコレート。ブリュッセル空港でも販売しています。
ポール・デルヴォー – Paul Delvaux
女性と電車と骸骨と。ミステリアスな夜の世界を描く
ポール・デルヴォーの絵画のモチーフは、これ以上ないほどはっきりしています。どこか退廃的な雰囲気を漂わせる女性と、電車と、ギリシャ神殿風の建物と、骸骨。シュールレアリズムの画家としてマグリットとの比較もよくされますが、ミステリアスながらも明るい雰囲気を残すマグリットとは対照的に、デルヴォーは濃密な夜と死の気配を漂わせています。
デルヴォーはブリュッセル市国立美術建築学校絵画部門の教授を経て、1965年には王立美術学校の美術部門長となりました。ブリュッセルの王立美術館には彼の作品が多く展示されているほか、ベルギー北部のSint-Idesbaldには彼の作品を多く所有するポール・デルヴォー美術館があります。
ジェームズ・アンソール – James Ensor
長い間孤独な制作活動を続けた仮面画家。オステンドの生家も美術館に
表現主義とシュールレアリズムの両方に影響を与えた画家、アンソール。ベルギーの港町オステンドで生涯を過ごした彼は、その生家が美術館となっており、彼の作品とともに彼が収集した美しい仮面のコレクションを見ることができます。
オステンドで彼の母親はお土産屋さんを開き、仮面や貝殻、魚の置物などを売っていました。父は多才な人でしたがイギリス人であったため職に就けず、母が生活を支えていたそうです。1階のお土産屋さんは復元されて、入場券売り場とミュージアムショップとして使われています。2階はアトリエで、3階が居間です。
アンソールの作品はこの生家のほか、ブリュッセルの王立美術館、アントワープの王立美術館、そして地元オステンドの近代美術館「Mu.ZEE」に展示されています。